特殊清掃「敵は強者」を更新いたしました。
敵は強者
特殊清掃の現場には、いくつもの敵が存在する。
もちろん、ここでいう「敵」とは、誰か悪意を持った人間のことではない。
我々が相手にするのは、もっと原始的で、もっと本能的で、そして時には人間の精神力を根こそぎ奪っていくような相手だ。
代表格を挙げるなら、まずは悪臭。
次に腐敗液。
そして、ハエ。
最後に……ウジ。
特殊清掃を知らない人からすれば、
「臭いのは分かるけど、ウジって本当にそんなにいるの?」
と思うかもしれない。
いやいや、いる。
しかも、こちらが想像する「ちょっといる」レベルではない。
彼らは、こちらの予想を軽々と飛び越えてくる。
「そこにいるはずがない」
という場所から現れる。
「もう勘弁してくれ」
というタイミングで大量に姿を現す。
まるで、
「お待たせしました。本日の主役です」
と言わんばかりに。
正直、登場の仕方だけで言えば、映画の悪役よりも演出が上手い。
特殊清掃員に立ちはだかる四天王!
特殊清掃の仕事をしていると、現場ごとに様々な問題が発生する。
その中でも、ほぼ必ずと言っていいほど遭遇するのが、悪臭との戦いだ。
人間の鼻というものは不思議なもので、最初は強烈に感じる臭いでも、ある程度時間が経つと慣れてくる。
これは便利な機能なのか、それとも危険な機能なのか。
たぶん、便利ということにしておこう。
毎回、
「うわっ!臭い!」
と叫びながら作業していたら、仕事にならない。
ただし、慣れると言っても「良い匂いになる」という意味ではない。
脳が、
「これは危険な臭いだけど、とりあえず作業を続けろ」
と判断して、感覚を麻痺させているだけだ。
人間の適応能力には感心する。
ただ、その能力をこんな場面で発揮するとは、人生とはなかなか奥深い。
香水売り場で鼻を鍛える人もいれば、腐敗臭の中で鼻を鍛える人間もいる。
同じ人類なのに、鍛える場所が違いすぎる。
次に腐敗液。
これもなかなか手強い。
床、畳、布団、家具。
遺体が長期間その場所にあった場合、体液は様々なものに染み込んでいく。
見た目だけでは判断できない。
表面を綺麗にしたと思っても、少し時間が経つと、
「まだ俺はここにいるぞ」
と言わんばかりに臭いが戻ってくる。
まるでしぶとい借金取りのようだ。
一度入り込んだら簡単には消えない。
だから特殊清掃は、ただ掃除をする仕事ではない。
相手は汚れではなく、「時間」そのものなのだ。
そしてハエ。
生きたハエなら、まだ話は早い。
窓を開ける。
追い出す。
それで終わる。
死んだハエなら、さらに簡単だ。
掃除機で吸う。
袋に入れる。
処分する。
問題はない。
しかし、彼らの親玉……いや、幼少期の姿。
そう。
ウジである。
なぜ、お前たちはそこにいる?
ウジという存在ほど、不思議で、そして厄介なものはない。
特殊清掃を始めた頃、誰もが一度は思う。
「一体、どこから来たんだ?」
本当にそう思う。
部屋は閉め切られていた。
人の出入りもない。
外部から簡単に侵入できるような状況ではない。
それなのに、遺体にはウジがいる。
しかも、腐敗が進んだ遺体になると、ほぼ例外なくと言っていいほど存在している。
もちろん、生物学的にはハエが産卵し、そこから孵化している。
頭では理解している。
理屈では分かっている。
しかし、現場でその光景を見ると、どうしても納得できない気持ちになる。
「いやいや、君たち……いつ来たの?」
と思ってしまう。
こちらが現場に入るまで、誰にも発見されず、静かに成長している。
そして、こちらが扉を開けた瞬間。
「作業員さん、お疲れ様です」
と言わんばかりに活動を開始する。
歓迎されているのか、襲撃されているのか分からない。
しかも、彼らの生命力は尋常ではない。
人間なら、
「こんな環境では無理です」
と三秒で帰宅するような場所でも、彼らは平然としている。
湿気。
腐敗。
悪臭。
普通なら避けたくなる条件が、彼らにとっては最高の住環境なのだ。
我々人間が、
「快適な部屋に住みたい」
と思うように、彼らにも彼らなりの理想物件があるらしい。
そして残念ながら、その物件情報誌に載っているのは、人間の生活空間ではない。
彼らにとって最高級マンションなのは、我々にとって最悪の現場なのだ。
敵ながら、アッパレ!
ここまでくると、もう認めざるを得ない。
彼らは強い。
嫌いだけど、強い。
憎らしいけど、能力だけ見れば一流である。
繁殖力。
適応力。
生命力。
どれを取っても、侮れない。
特殊清掃員として何度も戦ってきたが、毎回思う。
「こいつら、本気だな」
と。
人間が文明を築き、便利な道具を作り、薬剤を開発し、様々な技術を身につけても、ウジは何千年も変わらない方法で生き残っている。
人類がスマートフォンを作っている横で、彼らは今日も黙々と命をつないでいる。
なんとも対照的である。
片方は人工知能だの宇宙開発だのと言っている。
もう片方は、
「腐敗した場所、見つけました」
である。
方向性は違うが、生存にかける情熱だけは負けていない。
だから私は、彼らを単なる敵とは思えなくなってきた。
もちろん、現場では戦う。
見つければ処理する。
放置するわけにはいかない。
しかし、心のどこかで、
「また君たちか」
という気持ちになることもある。
長年付き合っていると、敵にも妙な親近感が湧いてくるものだ。
考えてみれば、私の仕事人生の中で、彼らほど頻繁に顔を合わせる相手も少ない。
同僚より会っているかもしれない。
下手をすると、親戚より会っている。
そう考えると、複雑な気持ちになる。
普通、人間関係では「腐れ縁」という言葉がある。
私の場合、それが文字通りなのだから笑うしかない。
そして、そんな彼らとの戦いの中で、今でも忘れられない現場がある。
まだ「腐乱」と呼ぶほどではない。
しかし、確実に腐敗が始まっていた遺体。
そこで私は、ウジという生き物の本当の恐ろしさを思い知らされることになる。
彼らは、ただ床を這うだけの存在ではなかった。
想像もしなかった場所へ入り込み、人間の感覚を完全に破壊する存在だった。
その時の光景は、今でも鮮明に覚えている。
そして私は、その日改めて思った。
やはり……
ウジという敵は、強者である。
目を疑うとは、このことだった
特殊清掃の現場では、「慣れ」というものがある。
最初の頃は、何を見ても驚く。
臭いに驚く。
汚れに驚く。
状況に驚く。
そして、自分自身がどこまで対応できるのか分からないことにも驚く。
しかし、人間という生き物は不思議なもので、何度も経験すると少しずつ順応していく。
以前なら、
「これは無理だ……」
と思った状況でも、
「さて、どう片付けるか」
と考えられるようになる。
もちろん、何も感じなくなるわけではない。
感覚が麻痺したというより、優先順位が変わるのだ。
「気持ち悪い」
より先に、
「どう処理するか」
が出てくる。
職業病と言えば職業病なのだろう。
例えば料理人なら、魚の内臓を見ても料理の工程として見る。
医療関係者なら、血液を見ても必要な処置を考える。
特殊清掃員の場合、腐敗した現場を見て、
「これはどこから手を付けるべきか」
を考える。
人間、慣れというのは恐ろしい。
そしてありがたい。
……ただし。
どんなに経験を積んでも、
「これはちょっと待ってくれ」
と思う瞬間は存在する。
口、鼻、耳。そして最後に目
その現場の遺体は、まだ完全な腐乱状態ではなかった。
しかし、腐敗は確実に始まっていた。
腹部は黒みを帯びた緑色へ変化している。
人間の身体が、時間によって少しずつ別の状態へ変化していく過程。
言葉にすると簡単だが、実際の現場で向き合うと、その変化の凄まじさを感じる。
もちろん、異臭もある。
腐敗臭というものは、一言では説明できない。
ただ臭いというだけではない。
鼻から入った情報が、脳に直接、
「これは危険な状態だ」
と伝えてくるような感覚だ。
そんな中で作業を進める。
死後処置の一環として、口や鼻、耳などには体液漏れを防ぐための処置を行う。
その確認作業の途中だった。
口の中を見た。
そこにいた。
ウジ。
しかも、一匹や二匹ではない。
大量にいる。
腐敗初期ということもあり、一匹一匹はまだ小さい。
だが、小さいからといって安心できるわけではない。
むしろ厄介だ。
サイズが小さい分、数が多い。
そして、動きが細かい。
「一匹なら何とかなる」
という考えは、彼らの前では完全に無意味になる。
一匹の問題ではない。
軍隊である。
しかも、命令系統もないのに完璧に動いている。
こちらは一人。
向こうは大人数。
人数だけで言えば、完全にこちらが不利だ。
口の中にいる。
ということは、
当然、次に確認する場所は決まっている。
鼻だ。
嫌な予感というものは、なぜかよく当たる。
鼻の穴を確認すると……
やはり、いた。
しかも、予想通り大量。
「やっぱりいるよね」
という諦めにも似た気持ちになる。
ここまで来ると驚きより、
「君たちは本当に抜け目がないな」
という感情が出てくる。
さらに耳を確認する。
……いる。
もう笑うしかない。
いや、正確には笑える状況ではない。
しかし、あまりにも見事に配置されていると、人間は逆に感心してしまうことがある。
ホテルの部屋なら、
「設備が充実していますね」
と言いたくなるところだが、
場所が場所だけに、褒めるわけにはいかない。
「全部屋完備ですか」
と心の中でツッコミを入れるしかない。
そして、一番見たくなかった場所
ここまでは、特殊清掃の現場では珍しいことではない。
もちろん一般の人からすれば十分に衝撃的な話だろう。
しかし、現場にいる側からすると、
「あり得ること」
として受け止める範囲だった。
問題は、その後だった。
よく見ると、目蓋の隙間。
そこに、小さな動きがある。
最初は、
「気のせいか?」
と思った。
しかし、違った。
いる。
小さなウジが見え隠れしている。
その瞬間、頭の中に一つの疑問が浮かぶ。
「まさか……」
もちろん、確認しなければならない。
見なかったことにするわけにはいかない。
恐る恐る目蓋を開ける。
そして、その瞬間。
私は自分の目を疑った。
……いや、正確には疑う自分の目そのものを疑った。
そこには、眼球を覆い尽くすほどのウジが集まっていた。
一瞬、時間が止まったような感覚になる。
頭では理解している。
「腐敗した遺体には虫が発生する」
それは知識として知っている。
しかし、
「知っている」
と
「実際に見る」
の間には、とんでもない壁がある。
例えば、テレビで高い場所から飛び降りる映像を見るのと、実際に自分が屋上の端に立つのでは全く違う。
知識と現実には距離がある。
その距離を、この時は嫌というほど感じた。
正直な感想を言えば、
「ギョエ~ッ!」
である。
非常に職業人らしくない表現だが、これが一番近い。
人間、限界を超えたものを見ると、難しい言葉など出てこない。
出るのは、
「うわ」
とか、
「え?」
とか、
「マジか……」
とか。
そして、この時の私の脳内には、
「目の次は、こっちの視覚がやられる!」
という、よく分からないツッコミが浮かんでいた。
小さな敵との地味で壮絶な戦い
問題は、驚いて終わりではない。
仕事である。
片付けなければならない。
しかし、これがまた簡単ではない。
ウジは一匹一匹が非常に小さい。
しかも、眼球という場所だ。
雑に扱うわけにはいかない。
遺体を傷つけることは避けなければならない。
そこで、ピンセットを使って一匹ずつ取り除いていく。
地味。
ひたすら地味。
戦いという言葉を使うと派手に聞こえるが、実際にやっていることは、
「小さな相手を一匹ずつ摘む作業」
である。
ただし、その精神的負担は大きい。
数が多い。
小さい。
動く。
そして、こちらは集中力を要求される。
まるで、
「史上最小サイズの宝探し」
である。
ただし、見つけても嬉しくない。
普通、宝探しなら見つけた瞬間に喜ぶ。
こちらの場合、
「あった……」
ではなく、
「またいた……」
である。
感情が真逆だ。
さらに厄介なのは、彼らも黙って捕まっているわけではないことだ。
こちらが作業していることを察知すると、危険を感じて逃げようとする。
そして、どこへ行くか。
肉の内部。
さらに奥へ。
「逃げ道を知っている」
という意味では、彼らは非常に優秀である。
こちらが道具を持ち、経験を積み、対策を考えている一方で、彼らは何万年も続けてきた本能だけで動く。
その差は大きい。
改めて思う。
やはり、敵は強者だ。
嫌われ者にも役割はある
ただ、長く特殊清掃をしていると、単純に、
「気持ち悪い」
だけでは終わらなくなる。
もちろん、現場では処理する。
放置することはできない。
しかし、彼らにも彼らなりの役割があるのだろうと思うようになる。
もし、この世からウジが完全にいなくなったらどうなるのか。
腐敗したものを分解する存在がいなくなったら、自然界はどう変わるのか。
考えてみると、彼らは嫌われ役を一手に引き受けている。
誰も近付きたくない場所。
誰も触りたくないもの。
そこを黙々と処理している。
社会的評価は低い。
むしろ、ほぼ最低ランクと言っていい。
しかし、仕事ぶりだけを見るなら、彼らは相当な働き者だ。
……まあ、できれば別の場所で働いてほしいが。
こちらの現場以外で。
切実に。
そんなことを考えながら、私は今日も小さな宿敵と向き合う。
嫌いだけど、認めざるを得ない。
ウジという存在は、本当に強い。
最後に笑うのは誰なのか
特殊清掃の仕事を続けていると、いろいろな感覚が変化してくる。
昔なら絶対に避けていたもの。
見ただけで顔をしかめていたもの。
それらに対する耐性が少しずつできてくる。
もちろん、好きになるわけではない。
そこは誤解してほしくない。
腐敗臭を嗅いで、
「今日もいい香りだな」
なんて思うわけではない。
ウジを見て、
「かわいいですね」
と言えるほど、人間性が変化したわけでもない。
ただ、長く付き合っていると、相手の特徴が分かってくる。
敵にも攻略法がある。
相手の癖を知る。
弱点を探る。
こちらも経験値を積んでいく。
まるでゲームのボス戦である。
ただし、普通のゲームと違うところがある。
敵を倒しても、経験値以外は何も落としてくれない。
アイテムもない。
お金もない。
せいぜい、
「今日も無事に終わった」
という疲労感だけである。
ウジ殺しという名の、あまり頼りにならない仲間
ウジとの戦いで、当然ながら武器も使う。
代表的なのが、市販の殺虫剤。
世間一般では、
「虫には殺虫剤」
というイメージがある。
確かに、家庭内で数匹の虫と戦うなら、それは正しい。
ゴキブリ。
ハエ。
蚊。
そういった相手なら、十分に効果を発揮する。
しかし、特殊清掃現場のウジ軍団を相手にすると、話が変わる。
こちらが期待しているほど、簡単にはいかない。
「さあ、これで終わりだ!」
とばかりに大量に吹きかける。
普通なら、
「やったか?」
という場面である。
映画なら、ここで敵が倒れて終わる。
しかし現実は甘くない。
ウジたちはというと……
なんというか……
元気にしている。
いや、正確には苦しんでいるのだろう。
しかし、こちらから見ると、
「効いているのか?」
と思ってしまうほどの生命力を見せる。
腐敗液にまみれた床。
その中を大量のウジが動いている。
そこへ薬剤を投入する。
すると、彼らは白い液体の中をうごめく。
その光景を見ていると、ある食べ物を連想してしまう。
もちろん、ここで具体的な料理名を出すのは控えたい。
以前、似たような話を書いた時にも、
「そんな想像をするな」
と自分でツッコミを入れたくらいだ。
人間の脳というものは不思議である。
見たくないものを見た時ほど、余計な連想力を発揮する。
料理番組を見る時には働かない想像力が、なぜ特殊清掃現場で最大限発揮されるのか。
脳よ。
もう少し空気を読んでくれ。
今、その能力はいらない。
正々堂々と勝負する
とはいえ、私は彼らとの戦いで卑怯な方法は取りたくない。
もちろん、仕事なので薬剤も使う。
必要な処置もする。
しかし、
「動けない相手だから好き放題やる」
という気持ちにはならない。
……まあ、単純に素手で触るのが嫌だという理由もある。
ここは正直に認めよう。
人間、立派なことを言っていても、本音は別のところにある。
「フェアプレー精神です」
と言いながら、心の中では、
「できれば早く終わってほしい」
と思っている。
それが普通の人間だ。
だからこそ、最終的には道具を使いながら、一匹ずつ処理していく。
摘む。
集める。
処分する。
単純作業だ。
しかし、相手の数が多いと単純ではなくなる。
気が遠くなる。
集中力との戦いになる。
そして、ふと思う。
「俺はいったい何と戦っているんだろう」
と。
人生にはいろいろな仕事がある。
営業職なら数字と戦う。
職人なら技術と戦う。
経営者なら市場と戦う。
そして私は……
ウジと戦う。
なかなか個性的なキャリアである。
いつしか、彼らは腐れ縁になった
長年この仕事をしていると、面白いことに気付く。
現場に入った瞬間、
「あれ?今回は少ないな」
と思う時がある。
正直、少し安心する。
「今日は楽勝かもしれない」
そんな期待が頭をよぎる。
しかし、特殊清掃という仕事は、そんなに甘くない。
床を剥がす。
家具を動かす。
汚染箇所を確認する。
すると……
いる。
やっぱりいる。
しかも、
「今まで隠れていました」
と言わんばかりに大量に出てくる。
その瞬間、なぜか少し笑ってしまう。
「ああ、やっぱり君たちはいるんだな」
と。
普通なら、
「最悪だ」
と思う場面だ。
もちろん最悪なのだが、同時に妙な安心感もある。
長年の知り合いに会ったような感覚。
ただし、普通の知り合いなら、
「久しぶり!」
だが、
ウジの場合は、
「久しぶりじゃねえよ!」
である。
歓迎できない再会。
しかし、確実に記憶に残る再会。
そんな関係だ。
そして、ウジが大量にいることを確認した私は、気持ちを切り替える。
よし。
今日も仕事だ。
今日も戦いだ。
相手が強いなら、こちらも正面から向き合うだけ。
特殊清掃員として、やるべきことをやる。
心の中で言う。
「今日も正々堂々と闘ってやるぞ」
……と言いつつ、その時の自分を客観的に見ると少し笑える。
普通の人が嫌がるものを見つけて、
「よし、いるいる!」
と少しテンションが上がる。
冷静に考えると、かなり危険な状態である。
たぶん、感覚のどこかが壊れている。
でも、それがこの仕事を続けるために必要な能力なのかもしれない。
最終的に勝つのは誰か
これまで、私は何度もウジと戦ってきた。
そして今のところ、現場では負けていない。
毎回、処理する。
毎回、片付ける。
勝利していると言っていい。
しかし。
この戦いには、最初から決まっている結末がある。
どれだけ経験を積んでも。
どれだけ強い薬剤を知っていても。
どれだけ技術を磨いても。
最後に勝つのは、私ではない。
なぜなら……
いつか必ず、私自身にもウジが湧く日が来るからだ。
これは特殊清掃員だけの話ではない。
読んでいるあなたも例外ではない。
どれだけ健康に気を付けても。
どれだけ立派な人生を送っても。
どれだけ社会的な成功を収めても。
最後には、人間は自然へ戻っていく。
その時、ハエがやって来る。
そしてウジが現れる。
今まで散々、
「敵だ」
「厄介だ」
「勘弁してくれ」
と言ってきた相手が、最後には自分の身体を分解する役割を担う。
なんとも皮肉な話である。
敵だけど、必要な存在
考えてみれば、ウジほど不思議な存在もない。
人間からは嫌われる。
見れば不快になる。
できれば関わりたくない。
しかし、自然界では必要な役割を持っている。
誰もやりたがらない仕事を、彼らは黙々とやっている。
評価されない。
感謝されない。
むしろ嫌われる。
……少しだけ、自分と似ている気がしないでもない。
特殊清掃という仕事も、世間から見れば決して華やかな仕事ではない。
誰かが避けたい場所へ行く。
誰かが触りたくないものを扱う。
誰かがやらなければならないことを引き受ける。
そう考えると、ウジと私。
意外と似たような立場なのかもしれない。
もちろん、だからといって仲良くしたいわけではない。
現場で出会えば、こちらは全力で対処する。
そこは譲れない。
でも、少しだけ認めている。
敵ながら、アッパレだと。
今日もどこかで、彼らは生きている。
そして私は、どこかの現場で彼らと出会う。
また、
「お前たちか」
と思いながら。
また、
「今日も勝負だ」
と思いながら。
ただ一つだけ確かなことがある。
この勝負。
今は私が勝っている。
しかし、最後の最後に勝つのは……
きっと、彼らの方なのだ。





