- Q
汚部屋問題を解決するには?
- A
「貸していた部屋を汚されてしまった」といった事例は珍しくない。
入居者が退去した後に発覚することが多く、それが常識的に許容されるべき汚れなら大した問題にはならないが、常識の範囲を超えた汚れだと問題になる。
特殊清掃・消臭消毒を要するケースも多いため、解決に向けてはヒューマンケアが役に立つことができるはずである。
汚部屋は外せないリスク?
不動産経営を行うにあたっては、色々なリスクがある。
都心の好立地マンションや一部の人気タワーマンションを除き、一般的な物件は、経年や時勢によって価値は下がっていく。
税金や建物や設備のメンテナンス費もかかる。
それを支えるのは月々の賃貸料。
したがって、大家(貸主)としてもっとも気になるのは賃料収入と空室問題。
ただ、潜在するリスクはそれだけではなく、孤独死・自殺はもとより、入居者の人的トラブルや災害・事件・事故にも留意しておく必要がある。
人的トラブルの代表例としては、家賃滞納、夜逃げ、住人間の揉め事(迷惑行為)などがあり、汚部屋も外せない一つなのである。
汚部屋がもたらす問題は?
第一の問題は、部屋の内装設備が汚損することと、場合によっては物件価値が下がること。
キチンと原状回復できない場合は、空室化や家賃低減などにつながりかねない。
次の問題は、その原状回復責任について。
原状回復するにしても手間や費用がかかるわけで、入居者(借主)との間でスムーズに協議がまとまるとはかぎらない。
原因をつくった借主が相応に負担しなければならないのは当然ながら、経年劣化・通常損耗も勘案されるため、大家も無キズというわけにはいかない。
また、深刻なケースになると、悪臭・害虫などが近隣に害が及んだり、汚染や異物が配管を傷めたりして漏水事故が誘発されるおそれもある。
場合によっては、嫌気がさした近隣住人が出て行ってしまい、家賃収入が途絶えたりすることもあり得る。
退去までされなくても、苦情がくるだけで不動産運用のリスクは高まる。
法律上の解釈は?
汚部屋の原状回復については、貸主と借主の間で意見の隔たり発生しやすいうえ、国土交通省のガイドラインや東京都の賃貸住宅紛争防止条例は、公正公平なルールであろうとしながらも、状況によってはオーナーまたは入居者一方に偏って有利または不利に働くこともあり、難しい問題が浮上してくる。
最高裁では、「原状回復は入居時の状態に戻すのではない。自然に生活をしてできた損傷や汚れなどは貸借人(入居者)が負担する必要はなく、賃貸人(大家)が賃料の中で支払うべきだ」という判決がでている。
また、ガイドラインでは、「借主が費用を負担しての原状回復」とは借主が入居した当時の状態に部屋を戻すものではないということを明確にしつつ、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善良な管理者の注意義務(善管注意義務)違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定めている。
つまり、入居当時の状態に戻すことではなく、入居していた期間に、通常新毛・経年劣化した後の状態から、それを超えて更に傷み汚れた分を戻すこととしているのである。
これに基づけば、入居者に対して、全額補償の請求はできないにしても部分補償を求めることはできると解釈できる。
争点になりやすいのは?
原状回復の負担割合について問題となるのが、部屋の汚れや傷みが自然に生活してできたものかどうかの判断と会計・税務上の残存価値。
あくまで会計・税務上の理屈とはいえ、借主が退去する時点で価値ゼロが妥当とされる資産について、その復旧費用は請求しにくいし、公でも認められにくい。
そうは言っても、それではあまりに大家の負担が大きいうえ、公序良俗や善管注意義務に照らしても借主の過失補償がゼロというのも公正さに欠ける。
そのため、入居者の故意過失・善管注意義務違反の部分については、原状回復費用の負担を求めるための交渉をする余地はあると思われるし、現実にもそういった協議は行われている。
汚部屋発覚のタイミングは?
「ゴミ部屋」の場合は、窓越に感じられる雰囲気が怪しかったり、身体が異臭を放っていたり、身に着けている服が汚れていたりしやすい。
また、玄関前にゴミ屑が落ちていることが多かったり、周囲に異臭や害虫が及んだり、出入りの際に玄関から室内が垣間見えたりすることもあり、当人が居住中に発覚することが多い。
しかし、整理・整頓・清掃ができていないだけの汚部屋の場合は、外部への影響がハッキリとしたかたちで表れにくいため、退去する際になって明るみになることが多い。
大家は不意打ちを食らうような格好になり、かつ、双方の見解が相違しやすいため、大なり小なりの波風が立ってしまうのである。
極秘に退去?
稀ではあるが、現実には正規の契約解除を経ず、隠れて退去する人もいる。
夜逃げなどと違うのは、以降も、家賃を払い続けること。
入居者は家賃を二重に負担することになるわけだが、経済的負担よりも罪悪感・羞恥心の方が大きいため汚部屋にしてしまったことを言い出せず、やむを得ずそうするのだ。
大家としては、家賃さえ払われ続けていれば何の問題もないように思うかもしれないが、必要なメンテナンス(清掃・換気・通水・設備稼働など)をせず放置しておくと、部屋はみるみる傷んでいく。
原状回復の難易度は上がっていく一方で、入居者にとってはもちろん、大局的にみれば大家にとってもリスキーなパターンであるから、家賃収入や空室問題にばかり気をとられるのではなく、契約者が実際に居住しているかどうかも念頭に置いておく必要があるかもしれない。
汚部屋を防ぐ方法はある?
アパートやマンションを賃貸運用している大家は、入居者の募集・各種契約・入退の手続きをはじめ、日常の管理業務を不動産管理会社へ委託している人が多いだろう。
したがって、賃借人と一度も顔を合わせることなく賃貸借契約を結び、また契約が終了するケースも当たり前のようにあると思う。
退去時の引き渡し立ち会いも管理会社は担うわけで、当然、常識を越えた汚れはそこで問題になる。
入居者の職業や収入はわかっても人柄や性格、生活スタイルまではわからないため、契約書の条項で縛るしかないが、入居者に対してどれだけの心理的拘束力を発揮するかは未知数であり、結局のところ、入居者の良識に頼るしかないのが実状である。
管理会社と協調することが大切
汚部屋が発覚した際、入居者とのやりとりは管理会社に一任するケースが多いと思うが、思惑通りに事が運ぶとはかぎらない。
管理会社のスタンスは様々。
基本的には大家側に立って協議・交渉するはずだが、中には、第三者的な立場で中立性を保とうとする会社や、大家の要求が過剰だったりする場合には入居者側に寄ったスタンスをとる会社もあるかもしれない。
立場と方向性を共有しておかないと、入居者との協議・交渉が求めるところとはかけ離れた先に向かってしまいかねないので、常日頃から、管理会社とは立場と方向性を一にしておくことが好ましい。
ヒューマンケアの汚部屋処理事例
画像の現場は、いわゆる汚部屋。
暮らしていたのは中年の男性で、築年数は約15年、居住期間は約10年。
掃除らしい掃除をしないまま居住し、そして、自己都合で退去していった。
天井壁クロスやフローリング材は、かなり傷んでいたものの6年の減価償却期間を過ぎており、この貼り替えについては大半が大家負担となるのはやむを得ない状況。
問題となったのは、キッチンシンク。
トイレもかなり汚れていたが、これは清掃で復旧できると判断。
洗面所も浴室も、きれいにできる可能性が高いと判断。
しかし、キッチンシンクは、本体はピカピカであるべき金属部分の汚れと傷みが激しく、清掃でどこまできれいにできるか見通せない状況。
新たな入居者を募集することを考えると、設備ごと交換しなければならない可能性があった。
天井壁クロスやフローリングと異なり、水廻設備においては、15年経過とはいえ耐用年数(資産価値)は残存しているとみなすことができた。
つまり、善管注意義務をもって使用していれば、設備交換までは至らないはずということ。
現物の汚損具合を見れば、入居者が劣悪な使い方をしていたことは明白で、故意過失・善管注意義務違反について抗弁はできないものと思われた。
ということで、築15年でも、10年居住でも、原状回復費用の負担について交渉できる余地は残されていた。
大家は、管理会社を通じて入居者に協議を請求。
ただ、国土交通省のガイドラインや東京都の賃貸住宅紛争防止条例を実例に適用させてみると、入居者保護の色が濃く表れることが多いのが現実。
つまり、入居者より大家の方が大きな負担を強いられるケースが多いということ。
管理会社としては公のルールに則って進めるほかなかったが、それでも、大家の負担が少しでも軽減するよう尽力。当方も専門的かつ客観的な立場で助力。
一方、入居者は、自らに過失・善管注意義務違反があったことは認めつつも、法外な補償を請求されることを危惧して、原状回復責任についての知識を習得。
平和的な解決を優先しながらも、争いに発展した場合に備えて理論武装していた。
結局、水廻設備の清掃費は、敷金を含めてすべて入居者が負担することに。
また、室内においても、建具の汚損等、入居者の故意過失・善管注意義務違反が認められる部分の修繕も入居者が負担することに。
結局、原状回復費全体として大家負担は7割余を占めたが、水廻設備の交換を免れたこともあり大家は安堵。
やれる交渉はやったわけで、公のルール遵守をベースにすると、入居者に対する原状回復費用の請求については、この辺りが適当な着地点という印象だった。